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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
十四
平素から口数の多い夫人ではあるが、不意に関係のない人の噂を持ち出して、聞かせないでもよいことまで聞かせたのは、いつもの単純なおしゃべりだけではなく、ひょっとすると威嚇的の意味を含めていたのかも知れない。………
「どうする? 雪子ちゃん、―――」
「………」
「まあ行って見たら、………」
「中姉ちゃんは?」
「あたしは附いて行ったげたいけど、あない云やはるよって遠慮しとくわ。井谷さんと二人やったら嫌?」
「二人ではなあ、………」
「そんなら、貞之助兄さんに附いて行って貰おう。―――」
と、幸子は雪子の顔色を判じながら云った。
「―――用事さえなかったら行ってくれはるよって、電話かけて見ようか」
「ふん」
雪子が微かに頷いたのを看て取って、幸子は大阪の事務所へ急報で申込んだ。
十四
貞之助は、井谷と雪子とが別々に出て五時半に事務所で落ち合う手筈であると聞いて、それで差支えないけれども、井谷は時間通りキッチリ来るに違いないから、雪子ちゃんもそれに遅れないように、―――井谷より二三十分早く着くくらいに来て欲しい、と、固く云って置いたのであったが、五時十五分過ぎになってもまだ見えそうな様子がないので、気が気でなかった。