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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

六

で、沢崎が食事を済ますと怱々に、

「甚だ勝手でございますが、汽車の時間がございますから」

と、あっさり暇を告げて座を立った時には、心からほっとしたのであった。

六

折角だからもう一と晩泊っていらしったら、………明日は日曜でもあるし、さっき話の出た養老へ案内させても宜しいがと、未亡人が云うのを辞退して、悦子達が戻って来ると直ぐ支度をし、予定の三時九分の上りを掴まえることが出来たが、それだと蒲郡へ五時半頃には着く筈であった。土曜日の午後だと云うのに二等車は空いていたので、四人が工合よくさし向いの席を占めたが、腰掛けて見ると昨日からの疲れが出て、皆口をきく元気もなく、ぐったりしていた。もう入梅の気構えの空が鬱陶しく、車室の中がじっとりと生暖いので、幸子と雪子とはうしろに靠れかかったままとろとろとし始め、妙子と悦子とは週刊朝日とサンデー毎日とを仲好くひろげて読んでいたが、そのうちに妙子が、

「悦ちゃん、蛍が逃げてしまうわ」

と、窓際に吊るしてある蛍籠を取って、悦子の膝の上に載せた。それは昨夜、菅野家の爺やが悦子のために間に合せに拵えてくれた、缶詰の空缶の底を抜いて両側にガーゼを張った即席の蛍籠で、悦子はそれを大事そうに汽車の中まで持ち込んでいたのであったが、いつの間にかガーゼを括ってある紐が緩み、その隙間から蛍が一二匹這い出し