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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

二十三

「あれから一時間程してお帰りになったそうでございます」

と、耳打ちをした。

「あんた、電話懸けたん?」

と云うと、

「はあ、さっき公衆電話へ行って懸けて参りました」

と、お春が云った。

二十三

明くる日病院へ行って聞くと、あれからまだなかなか帰りそうにもないので、雪子は又次の間へ引っ込んでしまって、それきり一遍も顔を出さずにいた。しかしだんだん本当に暗くなって来たので、仕方なく電燈をつけた。そして、病人の夕飯の時間が過ぎてしまうので、「水戸ちゃん」を呼んで、重湯を持って行かせた。奥畑はそれでも平気で、食慾があるかとか、いつからお粥が食べられるかとか、僕も腹が減って来たが何か取って貰えないかとか、この辺では何処がおいしいだろうかとか、そんなことまで云い出したが、しまいに「水戸ちゃん」までが次の間へ逃げ込んで、病人と二人きりにさせて置いたところ、そのうち実際空腹になって来たと見えて、「では失礼いたします、えらい長いことお邪魔しました」と、次の間の方へ声をかけて、又縁側から庭へ降りて帰って行った。その声をかけた時にも、雪子は襖の間から顔だけ出して挨拶をし、わざと送っても出なかった。