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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

二十二

では又後便にて

四月四日

幸子

姉上様

おん許へ

彼女は単純で人の好い姉を、あまり驚かしてはと気づかいながらも、なるたけ妙子に憐愍が注がれるようにと願う結果、つい幾分か病気の状態を大袈裟に述べた傾きはあるが、それでも大体自分の実感を偽らず書いたには違いなかった。そして、それを書き終えると直ぐ、―――悦子が帰らないうちにと思って、急いで病院へ引き返して行った。

二十二

病人の容態は、病院へ移した二三日後から眼に見えて快方に赴いて行った。あの日の気味の悪い死相などは、不思議なことに僅か一日だけの現象に過ぎなかったものと見えて、もう入院した翌日には、あの顔に漂っていた不吉な幻影のようなものはさっぱりと消え去っていた。幸子は怪しい悪夢から覚めたような気がするにつけても、この間櫛田医師が「大丈夫です大丈夫です」と力強く云った言葉を思い出して、彼の診断の確かなことに改めて感心させられた次第であった。そして、東京の姉があの手紙を見て、どんなにか心配しているであろうと、追っかけて第二の報道を送ってやったが、姉はその知らせが余程嬉しかったらしく、いつもの悠長にも似ず、中一日置いて次のような速達便の返事を寄越した。