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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
七
その晩、彼女は十時過ぎに道玄坂の家に帰ったが、その男との邂逅のことは義兄にも姉にも話さないでしまった。
七
その日幸子も、帰りの汽車の中でいろいろと考えさせられていた。彼女の頭の中には、一昨日の夜の蛍狩のこと、昨夜から今日の午前にかけての蒲郡のことなど、楽しかった遊びの後味よりも、ついさっき別れて来た雪子の、ひとりプラットフォームに立ってしょんぼり此方を見送っていた姿、今日も眼の縁の翳りが昨日ぐらいに目立っていた窶れた顔、―――などがいつ迄もいつ迄も消えずにいたが、それにつれてあの苦々しかった見合いの印象が、又してもよみがえって来るのであった。彼女は今迄雪子の見合いに立ち会ったことは何度あるか知れないのだが、―――もう十年以来のことなので、今度のような略式のものまで数えれば五六回では利かないような気がするのであるが、―――でも今度ほど、此方が引け目を感じたことはないのであった。今迄はいつも此方が上であると云う自信と誇りとを持って臨み、先方は只管此方の許可を願っていると云う風であったが、―――いつも此方が「不許可」を称えて先方を「落第」させてばかりいたのであったが、―――今度は第一歩から此方が弱気にさせられていた。