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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

妙子はつい二三日前に、三七日のお詣りに岡山在まで行って来たところなのではあるが、もうあの不幸な出来事が格別の創痍を心に留めていないらしく、元気になっていた。そして時々おどけたことを云って悦子や姉達を笑わせ、砂糖菓子だの掻き餅だのの小さな缶を、手品のように次々に取り出してはこっそり口を動かしたり、皆に分けてやったりした。

「姉ちゃん、ほら、三上山が見える。―――」

京都から東へめったに来たことのない悦子は、今度が二度目の近江路の景色に見入りながら、去年の九月雪子と上京した時に、瀬田の長橋や、三上山や、安土佐和山の城跡などを教えて貰ったことを思い出していたが、汽車が能登川の駅を出て少し行った時分に、どかんと云って、妙な所で停車してしまった。乗客達は皆窓から首を出したが、畑の真ん中の、線路が少し彎曲している土手の上で立ち往生したまま動かなくなっており、どう云う事故なのか、見たところちょっと分らなかった。機関車から従業員が一人二人降りて来て、車台の下を覗いて廻っているので、何ですか何ですかと皆が尋ねるのであるが、その人達にも原因が分らないのか、分っていても云わないのか、さあ、………と云うような曖昧な返事をして行ってしまう。