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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

それを一概に時代後れ、因循姑息と云う風に見んと、そう云う人柄の中にある女らしさ、奥床しさ云うもんを認めてくれる男性もあるやろうと思う。それが分るような男でなければ、雪子ちゃんの夫になる資格はないねんな」

幸子は、自分の方があべこべに宥められて見ると、夫に済まないと云う気持がひとしお強く湧いて来たのと、なるべく雪子を可哀そうと思うように努めたのとで、腹立たしさをだんだん抑えることが出来たが、母屋へ戻って、応接間へ這入って見ると、いつの間にか二階から降りてソオファに掛けている雪子が、『鈴』を膝の上に抱いてあやしながら余りにもケロリとした様子をしているので、つい又忿懣が萌して来た。彼女はそれを怺えようとして真っ紅に顔を上気させながら、

「雪子ちゃん」

と、呼んだ。そして、

「さっき丹生さんの奥さんから電話で、橋寺さんがえらい怒ってはるよってもう縁談はあかんようになった、云うて来やはってん」

と、雪子の前へ叩き着けるように云った。

「ふん」

と雪子は、例の調子で無関心らしく云って、いくらか照れ隠しもあるか知れぬが、ゴロゴロ云っている猫を一層喜ばすために手をその頤の下へ入れた。