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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

そう云えば、菅野の姉と云う人は、辰雄の兄や姉達の中では一番幸子たち姉妹をよく知っている関係にあった。幸子はたしか二十歳の時、辰雄や、鶴子や、雪子や、妙子たちと一緒に長良川の鵜飼へ行った帰りに菅野家へ寄って一泊したことがあり、それから両三年後にも一度、矢張同じ顔触れで、茸狩に招かれたことがあった。彼女は大垣の町から自動車で二三十分も田舎道を行ったこと、ほんとうに淋しい村落の、県道らしい往還の道端から折れて奥深い生垣の径を行った突きあたりに門構えのその家があったこと、近所にはほんの五六軒の佗びしい百姓家があるだけであったが、関ヶ原の役以来と云う菅野の家は宏荘な一郭を成していて、持仏堂の堂宇が、中庭を隔てて母屋と棟を並べていたこと、苔蒸した泉石の彼方に裏庭の菜園がつづいており、秋に行った時にはそこの栗の樹に栗が沢山実っていたのを、小女たちが枝に登って落してくれたこと、御馳走と云っては手料理の野菜が主であったけれども、それが大変おいしく、味噌汁の身に入れてあった小芋と、煮付けの蓮根が殊に美味であったこと、などを覚えているのであるが、義兄の姉に当るその家の女主人が、今では未亡人になっていて、気軽な身分でもあるせいか、幸子の次の妹の雪子が未だに結婚もせずにいる噂を耳にし、何とか良い縁を見付けて上げたいと云っているの