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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
この児は去年の暮以来姿を見せぬ妙子のことを、仕事が忙しいのであろうと云う風に聞かされて来たのであるが、それでもお春から事情をあらまし知らされていたし、又或る程度は知っていてくれる方が母にも都合の好いことがあった。彼女はそれから二三日の間、お春だけが頻繁に往ったり来たりして、雪子がちょっとも戻って来ないのを見ると、いよいよ不安で溜らなくなったらしく、お春のあとを追いかけてはその後の容態を尋ねていたが、しまいには母を掴まえて、
「こいちゃん何で家へ連れて来えへんの。早う引き取ったげなさいな!」
と云い出すようになった。その、あべこべに母を叱りつけるような剣幕には幸子も呆れて、
「悦ちゃん、こいさんのことはお母ちゃんや姉ちゃんが附いてるよって、悦ちゃんは安心してなさい。子供がそんなことに口出しするもんやありません」
と、宥めにかかると、
「そんな所に臥かしといて、こいちゃんが可哀そうやないの! こいちゃん死んでしまうわ!」
と、興奮し切った声で怒鳴ったりした。
そして実際、経過は決して順潮ではなく、だんだん面白くない方へ向いつつあった。雪子が枕頭に附き切っているので、看護にソツのある筈はないのだけれども、お春の持って来る情報では、日増しに衰弱する一方であると云うことであった。