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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

「ええわ、こいさん、悪かったら止めにするよってに、………もうそんなこと、気にせんと置いて。………」

病人を興奮させないことが第一なので、幸子は宥めるように云った。それにしてもまずいことになったと思わないではいられなかったが、何のために妙子が不意にそんな工合に云い出したのか、奥畑には何か分っていることがあるらしいけれども、彼女には想像も付かなかった。

彼女はその日は、夫に無断で出て来たことではあり、昼食の時間も迫っているので、一時間ばかり病室にい、好い塩梅に病人が平静に復したのを見届けると、一と先ず引き取ることにした。帰りは札場筋から電車かバスに乗るつもりで、例のマンボウのある近道を国道へ歩いて行ったが、雪子は途中まで送って来、お春を少し後の方から附いて来させて、姉と並んで歩きながら、

「実は昨夜、けったいなことがあってんわ。―――」

と、そんな風に語り出した。そして云うのには、昨夜の夜中、二時頃であったと思う、自分が病室の廊下を隔てた反対側の部屋に看護婦と二人で寝ていると、(夜は大概自分か看護婦かが交代で病室に詰めるのだけれども、昨夜は病人の容態が最初いくらか良さそうに見え、十二時頃から安眠したようだったので、今夜は僕が代りましょう、あなた方は一遍ゆっくりお休みなさいと啓坊が云うのに任せて、二人は隣室に寝、病室