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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
、お金ででも、品物ででも、早く返してしまう方がよい、と云い、なお附け加えて、中姉ちゃんは今でも啓坊をお金持のように考えているかも知れないけれど、あたしはこの間じゅうあの家に泊っていて、思いの外内証が苦しいのだなと心付いたことがいろいろあった、たとえば御飯のお数なども驚くほど質素で、晩の食卓にもお吸物の外には野菜の煮き合せのようなものが一品附くだけで、啓坊も看護婦もあたしも皆同じものを食べたのである、お春どんが時々見かねて、西宮の市場から天ぷらだの蒲鉾だの大和煮の缶詰だのを買って来てくれることがあったが、そんな時には啓坊もお相伴に与っていた、斎藤先生の運転手に遣る祝儀なども、なるべく私が気を付けて出すようにしたが、しまいにはいつも私に払わせて知らん顔をしていた、でも啓坊は男だけに細かいことには無頓着な風を装っていたが、何となく油断がならない気がしたのはあの婆やさんと云う人であった、あの人は啓坊思いの忠義者で、気だても優しく、こいさんのためにも随分親切に手を尽してくれたけれども、一方台所の経済は一切自分が切り盛りしていて、一銭二銭のことも無駄がないように始末した、と云い、どうも私の見るところでは、あの婆やさんはうわべは実に愛想がよいが、内心ではあたし等の一家、殊にこいさんには余り好感を持っていないのではない