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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
「ふん、………」
と云って、妙子は急に厭な顔をした。
「たとい半年ほどでもええ、暫く向うに居着く迄でも、こいさんが附いて行ったげる、云うたらその気になりはるかも知れん。人一人助ける場合やよってに、こいさんからしてその気にならなあかん思うわ」
「ほんまに、そないしたげたらどう。―――」
と、幸子も云った。
「そうしたらきっと、啓坊の兄さんかてこいさんに感謝しやはるわ」
「うち、今が啓ちゃんと別れる好え機会や思うねん」
と、妙子は低い声だったけれどもきっぱりと云った。
「ああしてられたら、いつになっても今迄の関係清算する云う訳に行かんさかいに、一人で満洲へ行ってくれるのんが一番ええねん。そやよってにうちは極力勧めてるねんけど、啓ちゃんは又それがあるさかいに、どうしてもよう行かんのやわ」
「なあ、こいさん、―――」
と、幸子が云った。
「あたし等何も、無理にこいさんを啓坊と結婚さそう云うのやあれへんで。今も云うように、この際兎も角も附いて行ったげて、半年でも一年でも一緒に暮らして、真面目に勤めてはるとこを見届けてから、厭やったらこいさんだけ帰って来たかて構めへんやないか」
「満洲くんだりまで附いて行ったりしたら、なおのこと別れられへんようになるわ」