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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

や大部分を遣い果たして、剰すところ幾何もない有様なのである。だから建築屋になろうとしたのも、遅蒔ながらその方で自活の道を立てようと云う意図があった訳なので、それもこの時局でさえなかったら巧く行きそうだったのであるが、不幸にして目下のところ一頓挫を来たしているのである。でも、華冑の子弟によくある型の、交際上手な、話の面白い、趣味の広い人で、自ら芸術家を以て任じている天成の呑気屋さんであるから、当人は一向そんなことを苦に病んでいない。今度この人に細君を持たせようと云うのも、当人が余り呑気なので、端の者が気を揉んで、ああして置いては宜しくないから何とかして身を固めさせよう、と云い出した次第なのである。―――

なお井谷の云うところに依ると、井谷がこの人を知ったのは、去年目白を卒業して雑誌「女性日本」の記者になった娘光代の紹介なのであるが、御牧氏は同社の社長国嶋権蔵氏に大変可愛がられているのである。それは国嶋氏が嘗て御牧氏の設計で赤坂南町に住宅を建てたのが、非常に彼の気に入ったのが始まりで、そんな縁故から御牧氏は国嶋氏の家庭へも出入し、夫人にもひどく重宝がられるようになった。