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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

て、その日の四時頃に見えた。早めに帰宅していた貞之助は、応接間で三四十分余人を交えずに会談してから、幸子と雪子と悦子を加えて神戸に出、オリエンタルホテルのグリルで食事をして、新京阪で嵯峨へ帰る御牧を阪急まで送って行って別れた。御牧の態度は東京の時と少しも変らず、初対面の貞之助の前でも、磊落で、話上手で、肌触りのよいところを発揮したが、酒はこの前よりも多量に飲み、食後も盛んにウィスキーのグラスを傾けつつ諧謔を弄して倦むことを知らないので、誰よりも先ず悦子が喜んでしまい、帰りに街を歩いた時は、親しい叔父にでも甘えるように御牧に手を曳かれて行くと云う有様で、姉ちゃん御牧さんをお婿さんにしやはったらええと、幸子に耳こすりしたくらいであった。が、貞之助は、あんた、どない思いなさる、と、妻に聞かれると、暫く考えて、会って見ての感じは勿論悪くないし、人に好印象を与えると云う点では申分がないので、僕も大いに気に入ったことは入ったけれども、ああ云う風な、馬鹿に肌触りのよい人は、気むずかし屋の半面を持っていて、細君などには辛く当るような例が多い、殊に華族の坊ちゃんなどにはよくそう云うのがあるようだから、そう頭から惚れ込んでしまう訳には行かない、と云い、身許を調べる必要はないにしても、あの人自身の素行とか、性質とか、又、今迄