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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

招かれることになった。

当日、貞之助たちは新京阪の桂で乗り替えて嵐山の終点で降り、中之島を徒歩で横ぎって渡月橋のほとりに出た。毎年の春の花見に馴染の深い場所であったが、今は極寒の季節であるのに加えて、京都の冬は格別なので、大堰川の水の色を見ても何かしんしんとしたものが骨身に沁みるようであった。川に沿うて三軒家の前を西に行き、小督局の墓所を右に見て、あの遊覧船の発着所の前を過ぎ、天竜寺の南門の方へ曲ったところに「聴雨庵」と云う額の懸った門のあるのがそれであると教えられていたので、直ぐに分ったが、貞之助たちはこんな所にこんな別荘があることを始めて知ったのであった。家は葛屋葺の平家建てで、そう広そうにも思えなかったが、座敷の正面に嵐山を取り入れた泉石の眺めは素晴らしかった。国嶋の紹介で主人側の人々との挨拶が済んだあとで、寒いけれども風がないから少しお歩きになりませんか、庭を御覧下さると親父が喜びますから、と、御牧がそこらを案内して廻ったが、ここから見ると、嵐山は庭つづきになっていて、間に道路や大堰川が挟まっているようには思われない、そして花時の雑沓の折にも、ここばかりは人里離れた仙境のように閑寂であり、外の群衆の騒音などは何処にあるかと訝しまれるばかりである、と云うのが親父の自慢であって、庭内にはわざと一本の桜