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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
これにはいろいろな事情があって、小生は決してそのお言葉をないがしろにした訳ではなく、いつもそのことを不本意に思っていたのであるが、ありていに云えば雪子ちゃんが、東京へ行くことを甚しく厭い、幸子も幾分それに同情する気味があったので、余程強硬な手段に訴えるにあらざれば、実行することが出来なかったのであった。しかし何と云っても、一半の責任が小生にあることは申す迄もない。小生はその責任を感ずるが故に、雪子ちゃんの縁談についても及ばずながら奔走しつつあったような次第であった。実際、兄上の命令に服しない妹を、兄上として世話なさることが出来ないのは当然であって、今日ではむしろ小生の方でこそ面倒を見る義務があるのではなかろうか。それも兄上が余計なお切匙だと云われるなら引き退るより外はないが、小生は疾うからこう云う心持で行動して来たので、今度の話に許可をお与え下さるなら、それに伴う費用等は小生に於いて負担すべきものと考えているのである。但し、誤解のないように申添えるが、何も斯様に申したからとて、小生は雪子ちゃんを小生の家から嫁に行かせようと申すのではない。勿論このことはわれわれだけの内輪話であって、何処までも雪子ちゃんは本家の娘として嫁入りすることに変りはないのである。