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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
そうこうするうち、桜の花も散りかけて来るので、貞之助たちはあと半月で雪子が嫁いで行くことを思い、慌しい春の一日々々が惜しまれてならず、何がな記念の行楽をでも、と考えたのであったが、今年は去年よりも物事が一層むずかしくなっていた。現に雪子の色直しの衣裳なども、七・七禁令に引っ懸って新たに染めることが出来ず、小槌屋に頼んで出物を捜させたような始末で、今月からはお米も通帳制度になったのであった。それに今年は菊五郎も来ず、花見は去年でさえ人目を憚ったくらいなので、尚更遠慮しなければならなかった。でも、毎年の行事だけはと云うので、思い切り地味な作りをして、十三日の日曜に日帰りで京都へ行き、瓢亭などは抜きにして平安神宮から嵯峨方面を申訳に一巡したが、今年も亦妙子がいず、四人が大沢の池のほとりの花の下でつつましやかに弁当を開き、塗盃に冷めたい酒をしめやかに飲み廻しただけで、何を見たやら分らない気持で帰って来た。
貞之助たちがこのお花見に行った明くる日に、かねてからお腹の大きかった鈴がお産をした。この牝猫はもう十二三歳になる老猫なので、去年妊娠した時にも自分の力で生むことが出来ず、注射で陣痛を促進してようよう生んだのであったが、今年も前の晩から産気づきながら容易に分娩しないので、階下の六畳の押入に産所を作って、獣医を呼ん