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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
幸子達は、母がどうせこの秋は持ち越せないものと覚悟していたのではあったけれども、あの死顔があんなに美しくなかったならば、あの折の悲しみももっと堪え難いものだったであろうし、引いてはもっと暗い思い出が長く心に残ったであろう。いったい父は早くから道楽で身が持てなかった人なので、当時としては割合に遅い二十九と云う歳に、自分より九つも若い母と結婚したのだそうであるが、親類の年寄などに聞くと、さしもの父もひとしきりはお茶屋へ足が遠のいた程、夫婦仲がよかったものであった、それに、父がぱっぱっとした豪快な気象であるのに反し、母は京都の町家の生れで、容貌、挙措、進退、すべてが「京美人」の型に篏まっており、互の性質に正反対なところのあるのが、いかにも好い取り合せで、端から見ても羨しい夫婦であったと云う。が、それは幸子などの記憶にない遠い昔のことで、彼女が覚えている父は、いつも家を外に遊び歩いていた父であり、母はそう云う夫に満足して何の不平もなく仕えていた町方の女房であった。そして母の出養生が始まってからは、父の遊び方が一層傍若無人に、「豪遊」と云う形式にまで発展して行ったのであったが、でも幸子は、父が大阪より京都の方でより多く遊んだこと、自分もしばしば祇園の茶屋へ連れて行かれたことがあり、父が馴染みにしていた芸妓を何人か