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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

、十何年来の所帯の疲れが一遍に出た形で、何よりも按摩を呼んで貰い、昼間から二階の寝室に上って、勝手に寝ころばして置いて貰うのを喜ぶと云った有様であった。幸子は、姉が神戸をよく知らないので、オリエンタルや南京町の支那料理屋などへも案内しようと思っていたのに、そんな所へ連れて行ってもらうよりは、此処で誰に気がねもなくのんびりと手足を伸ばしていたい、御馳走なんぞ食べさしてくれないでも、お茶漬で結構だから、と云ったりして、一つは炎暑のせいもあったが、足かけ三日の間、何のこれと云う纏まった話もせず、ただごろごろして過してしまった。

鶴子が帰って行ってから数日過ぎて、いよいよ出発の日が二三日後にさし迫った頃、亡くなった父の妹に当る人で「富永の叔母ちゃん」と呼ばれている老女が、或る日ひょっこり訪ねて来た。幸子は、今まで一度も見えたことのない叔母が、暑い日ざかりに大阪から出て来たのには何か用件があることと察し、その用件も大凡そ分っているような気がしたが、矢張思った通り雪子と妙子の身柄に関しての問題であった。―――つまり、今までは本家が大阪だったから、二人の妹たちが彼方此方へ往ったり来たりもよかったけれども、これからそうは行かないとすると、もともと二人は本家に属する人なのであるから、これを機会に本家と一緒に東京へ行くべきで