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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页
」
次第に彼は、北村相手ではなく、一座の人々を相手に饒舌ってるらしかった。ところがふしぎなことに、彼のその意識がはっきり外に見えだすにつれて、耳を傾ける者は少くなった。当の北村はそっぽ向いて、ウイスキーをなめているし、小泉と順造は窓の外を眺めているし、井上夫人と富子は、時々小声で何か囁き合っている。
田島の声がとだえて、ひっそりとなった時、順造は立ち上って、小泉になにか合図をした。そして二人は室から出て行った。そのことがなにか奇怪な印象を与えた。富子夫人さえ、二人のあとに随うのをためらった。
後に、千重子の言うところによれば、順造と小泉とは、話をしながら縁側を一往復し、それからなおちょっと立ち話をした、ただそれだけのことだったらしい。
応接室では、北村がふいに立ち上って、壁にかかってる画面の前に佇み、両腕を拱いてじっと眺めた。
「これは実にふしぎな絵だ。遠くの山はまあいいとして、近くの丘と野原がおかしい。あの丘には、到底、人間はのぼれやしない。あの野原は、どうも、人間は歩けやしない。つまり大地がないんだ。それでいて、これは写実的な絵だからな。ねえ、田島君、君はあの野原が歩けますか。