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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页
「小父さま、酒をあがると、よい絵がおかけになるんですって、ほんとうなの。」
「誰がそんなことを言ったかね。」
「だって、小父さまの絵は、物の形がみんなまがっていて、酔っ払いのかいたものだって……。」
「ははあ、絵の分らない奴の影口だな。然し、いいかね、物をじっと見つめていてごらん。この銚子でも皿でもいいから、じっと見つめていてごらん。必ず、形がまがってくる。なぜまがるか、分るかね。眼の錯覚じゃないんだ。光線のせいだ。つまり、色彩のせいだ。まっすぐな形ばかり書く奴は、色盲患者か、本当の盲人かだ。明るい光りの中に生きていて、色彩がはっきり見える画家には、物の正形というものはない。すべての物体は、光線によってデフォルメされるんだ。」
「だから、小父さまのお弟子さんの、お姉さまの絵も、へんな恰好になるのね。」
「ばかね。お酒をぶっかけるわよ。」
千重子がお銚子を持ちあげると、八重子は縁側まで逃げていった。
「あ。」
そして静かに言った。
「お父さまが、お庭に出ていらっしゃるわ。」
あちらの、奥の座敷の前庭に、藤棚があり、その青葉の影に設けられてる円卓と腰掛に、松本順造が休らっている。