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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

「私が挨拶してこよう。酒を飲んでいたんで、少し工合が悪いな。」

北村は庭におりていった。

松本順造はもう六十の年配だが、身体は頑丈で、印刷物を読む時以外は老眼鏡を用いず、浅黒い顔と禿げ上った前頭部とに重々しい貫祿がある。――北村にちょっと会釈を返し、傍の腰掛をすすめたまま、機嫌がよいのか悪いのか分らない表情だった。

千重子が用を聞きに来ると、彼は紅茶を求め、北村のために酒を持ってこさした。

「ちょっと眠りたいから、薬が利くまで、三十分ばかりで御免蒙るよ。」

「どこか、お悪いのですか。」

「この頃、どうも体の調子が悪いので、小泉博士に詳しく診察して貰うことにしているが、さし当っては、なるべく眠るように心掛けている。睡眠が第一だからね。」

「小泉さんから、なにか、注意でもありましたのですか。」

「いや、まだ診て貰ったわけではない。」

そこで、暫し言葉がとぎれた。

「さあ、遠慮なくやってくれ。」

すすめられるままに、北村はまた酒を飲みはじめた。

「どうも、わるい予感がしていかん。実際のところ、僕がどっと寝ついたりすると、富子はあまり丈夫な方ではないし、順一はまだ学生だし、娘は二人とも世の中のことを知らないし、困ることが多いだろうと思って、ばかな取越し苦労をするんだよ。