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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

」

八重子が立って行った。

やがて、八重子はにこにこして戻って来た。

「お母さまに、お菓子をねだってきたわ。」

それはよいが、コリント・ゲームの鉄の丸は、久しく使わないので、赤く錆びていた。ぼろ布と油とを取りに、八重子はまた立って行った。そして三人で、鉄の丸を磨いた。

「ずいぶんひどいわ。これで出来るかしら。」

「出来るよ。だが、少し意外だね。鉄の丸がこんなに錆びてる、それだけ僕たちは成長したというわけか。感慨無量だね。」

「まあ、順一さんにも似合わない台詞ね。今晩、順一さんはどうかしてるわ。」

「見損っちゃいかんよ。僕だって日に日に成長してるんだからね。」

電燈が二回ばかり瞬いて、すーっと消えてしまった。暗闇になるかと思われたが、眼が馴れると、ぼんやりした明るみが戸外の大気中にあって、暴風雨の音がひときわ烈しい。

「ランプを持って来ましょうか。」と八重子が言う。

「まあ待てよ。野蛮趣味もたまにはいいよ。」

「なあに、野蛮趣味って。」

「電線はあっても、電燈がつかないことだ。水道の鉄管はあっても、水が出ないことだ。瓦斯管はあっても、瓦斯が出ないことだ。つまり、鳥や獣と同様、太陽といっしょに起きて、太陽といっしょに眠り、天然の水を飲み、煮炊きしない生の物を食うのさ。