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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页
北村庄作の声の調子は、ずいぶん酔ってるようだった。
「どうしたんだい。電話がいっこう通じない。何度もかけさしたんだよ。君を喜ばせようと思ってね。私が言った通りだ。菅原君が帰って来たよ。」千重子は息をのんだ。「無事に帰って来たよ。元気だ。おみやげが、話のおみやげが、君へはたくさんあるそうだ。とにかく、それだけ知らせておく。」どこから電話しているのかと、千重子は尋ねた。北村の家に電話はないのだ。「どこでもいいさ。いずれ逢ってから話す。愉快なことがあるよ。菅原君が帰って来たんだから、安心して、ゆっくりやすみなさい。」
千重子は応接室に戻っていった。
順一と八重子が、千重子を見上げた。千重子の顔は蝋のように緊張していた。
「何だい。」と順一は尋ねた。
「うん、何でもないの。」
だが、千重子は立ったまま、暫く席につかなかった。
「グラスは……。わたしも少し飲むわ。」
「あの小父さんのことだから、どこかで飲んでるんだろう。電話口で、名前を間違えたんじゃあるまいね。僕にかければ、すぐに飛び出してゆくんだがなあ。」
誰も返事をしなかった。風雨の音が続いていた。
「ゲームを始めるよ。