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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

明るみは速く、弁当を食べようかと思ってるうちに、もう火口の縁全体が見渡される。あちこちに、人がいた。立ってる者、坐ってる者、火口を眺めてる者、弁当を食べはじめてる者……すべて、同じ登山者だ。そのことが、俺の気持ちをつまらなくさせてしまった。

高千穂とどう違うか。高千穂では、広い山肌に自由に散らばってる小鳥のようなものだった。ここでは、火口の縁に、つまり一つの棲り木に、並んでとまってる小鳥のようなものだ。誰も彼も、全く無縁の他人ではない。同じものを見、同じものを感じ、同じようなことをしている。俺もその中の一人だ。せめて誰か一人でも、別な所に立ち、別なものを見たらどうか。高千穂ではまだその自由があった。ここにはない。それはほんの紙一重の差だ。然し重大な差だ。そのために俺は、ここでは孤独でなかった。自由でなかった。もし俺が火口に飛び込んだら、皆も同様に飛び込んだかも知れない。

俺が甘んじて周組南の世話になってるのも、俺の孤独、俺の自由が、そのために少しも妨げられることがないからだ。彼の世話を当然のことと俺は考えてるのではない。相済まぬと心から感謝し恐縮している。