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きくやしき
菊屋敷
山本 周五郎
「菊屋敷」産報文庫、大日本雄辯會講談社、1945(昭和20)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,620 字 · 71 页
そう願えればぜひ、と晋吾もそばから言葉すくなに云い添えた。
相談はそれできまった、志保がなにを考える必要もなく、小松は自分の思うままに事を運んでゆき、てきぱきと締め括りをつけた、「今日からはこの伯母さまのお子になるのですよ」子供にもそう云いきかせた、「……いつも話すとおりお祖父さまは他国にまでお名を知られたりっぱな方でした。あなたも伯母さまのお訓えをよく守って、お祖父さまに負けないすぐれた人にならなければいけません。あなたの成人ぶりに依っては、黒川の家名を再興して頂けるかも知れないのですから、わかりましたね」まる四歳の子には無理なことをきびきびと云い聞かせ、なおせきたてるように志保との母子のかための盃を促がした。
志保は云われるままになっていた。今頃はちょうど正念寺の父の墓前で、手紙の主が空しく自分を待っているに違いない、――どうぞお赦しあそばして。志保は胸苦しいほどの思いでそう念じた、――こうなることが亡き父の意志だと存じます。あなたもそう思召して、わたくしのことはどうぞこれぎりお忘れ下さいまし。そしてなお志保は自分に誓うのだった。
――これで生涯の道がきまった。