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きくやしき

菊屋敷

山本 周五郎

「菊屋敷」産報文庫、大日本雄辯會講談社、1945(昭和20)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,620 字 · 71 页

青空文庫

四

である。

そこまでの文章のすなおさ、飾りのない正直な書きぶりが志保の胸をうった。そしていちがいに嘲弄されたと思った自分の、頑な心ざまをかえりみて脇のあたりにじっとりと汗を感じた。だが文はそこからしだいに強い語調に変っていた。――あのときの気持は、現在なお同じ強さで自分の心を占めている、こう云うとあなたはまたお怒りなさるだろうか、もしお怒りになるようだったらあなたの間違いである、あなたは冷たいくらい怜悧な頭をもっていらっしゃるのに、唯ひとつの事だけには愚昧のように眼がおみえにならない、それはあなたがご自分を美しくないとお信じになっていることだ。

四

なるほど、あなたは世にいう艶麗のおひとがらではない、と手紙は書き続けてあった、――だから人にはたやすくはわからないかも知れない、けれどもあなたに近づき、あなたと言葉を交わしていると、云いようのない美しさ、心の奥まで温められるような美しさにうたれる、そういうときのあなたは、お顔つきまでが常には見られない冴え冴えとした美しさを湛えるが、おそらくあなたご自身はお気づきなさらぬだろう、そしてそれに気づかぬところがあなたのよいところであり欠点ともなっている。