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きくやしき
菊屋敷
山本 周五郎
「菊屋敷」産報文庫、大日本雄辯會講談社、1945(昭和20)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,620 字 · 71 页
ただ月の六日は亡父の忌日に当るので、藩にいる亡父の門下の青年十七人が来て展墓をし、別棟になっている塾で半日ほど、旧師の追憶など語りあうのが例になっている。その日だけは志保も村塾を休み、集る人々の接待に楽しい日を暮らすのだった。
志保が髪をあげ、着替えをして、剪って来た菊を活けていると、もう門人たち十七人が訪ねて来た。……いちばん年長の杉田庄三郎という青年が母屋の縁先へ寄って、「今日は少し早めにお邪魔を致しました」と挨拶を述べた。
「午後から城中に御用がありますので」
「まあそれは」と志保は縁端へ出て残念そうに云った、「さぞお萱が残念がることでございましょう、今日はお昼餉になにか差上げたいと用意していたようでございますのに」
「それはお気のどくを致しますな、ちょっと欠かすことのできない御用なものですから、それと……」庄三郎はふと眩しそうな眼で志保を見た、「じつはあなたに少々おたのみがあるのですが、塾のほうへいらしって頂けませんか」
「わたくしでお役に立つのでしたらお伺い申しましょう。ただ今お茶を持ってあがりますから、どうぞ皆さまお通りあそばして」
ではご免を蒙りますといって、十七人は庭から塾の建物へはいっていった。