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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

仮に他日これを読む人があるとして、己はここでその読む人に言う。「読者よ。僕は君に或る不可思議な告白をせねばならない。そしてその告白の端緒はこれから開ける」

奥さんの目の謎は伝染する。その謎の詞に己の目も応答しなくてはならなくなる。

夜の静けさと闇とに飽いている上野の森を背に負うた、根岸の家の一間で、電燈は軟い明りを湛え、火鉢の火が被った白い灰の下から、羅を漏る肌の光のように、優しい温まりを送る時、奥さんと己とは、汽車の座席やホテルの食卓を偶然共にした旅人と旅人とが語り交すような対話をしている。万人に公開しても好いような対話である。初度の会見の折の出来事を閲して来た己が、決して予期していなかった対話である。

それと同時に奥さんはその口にする詞の一語一語を目の詞で打消して、「あなたとわたくしとの間では、そんな事はどうでも好うございまさあねえ」とでもいうように、ironiquement に打消して全く別様な話をしている。Une persuasion puissante et chaleureuse である。そして己の目は無慙に、抗抵なくこの話に引き入れられて、同じ詞を語る。