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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
席と席とは二三尺を隔てて、己の手を翳しているのと、奥さんに閑却せられているのと、二つの火鉢が中に置いてある。そして目は吸引し、霊は回抱する。一団の火焔が二人を裹んでしまう。
己はこういう時間の非常に長いのを感じた。その時間は苦痛の時間である。そして或る瞬間に、今あからさまに覚える苦痛を、この奥さんを知ってからは、意識の下で絶間なく、微に覚えているのであったという発見が、稲妻のように、地獄の焔と烟とに巻かれている、己の意識を掠めて過ぎた。
この間に苦痛は次第に奥さんを敵として見させるようになった。時間が延びて行くに連れて、この感じが段々長じて来た。若し己が強烈な意志を持っていたならば、この時席を蹴て起って帰っただろう。そして奥さんの白い滑かな頬を批たずに帰ったのを遺憾としただろう。
突然なんの著明な動機もなく、なんの過渡もなしに。(この下日記の紙一枚引き裂きあり)
その時己は奥さんの目の中の微笑が、凱歌を奏するような笑に変じているのを見た。そして一たび断えた無意味な、余所々々しい対話が又続けられた。奥さんを敵とする己の感じは愈々強まった。奥さんは云った。