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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

そこで偽善には相違ない。そんなら偽善呼ばわりをしている男はどうかというに、これも自分が真の善というものを持っているので、偽善を排斥するというのでもなんでもない。暴露主義である。浅薄な、随って価値のない Cynisme であると、純一は思っている。

とにかく塩田君を呼んで来ようじゃないかということになった。曽根は暫く方々見廻していたが、とうとう大臣の前に据わって辞儀をしている塩田を見附けて、連れに行った。

塩田という名も、新聞や雑誌に度々出たことがあるので、純一は知っている。どんな人かと思って、曽根の連れて来るのを待っていると、想像したとはまるで違った男が来た。新しい道徳というものに、頼るべきものがない以上は、古い道徳に頼らなくてはならない、古に復るが即ち醒覚であると云っている人だから、容貌も道学先生らしく窮屈に出来ていて、それに幾分か世と忤っている、misanthrope らしい処がありそうに思ったのに、引っ張られて来た塩田は、やはり曽根と同じような、番頭らしい男である。曽根は小男なのに、塩田は背が高い。曽根は細面で、尖ったような顔をしているのに、塩田は下膨れの顔で、濃い頬髯を剃った迹が青い。