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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
今日も風のない好い天気である。銀杏の落葉の散らばっている敷石を踏んで、大小種々な墓石に掘ってある、知らぬ人の名を読みながら、ぶらぶらと初音町に出た。
人通りの少い広々とした町に、生垣を結い繞らした小さい家の並んでいる処がある。その中の一軒の、自然木の門柱に取り附けた柴折戸に、貸家の札が張ってあるのが目に附いた。
純一がその門の前に立ち留まって、垣の内を覗いていると、隣の植木鉢を沢山入口に並べてある家から、白髪の婆あさんが出て来て話をし掛けた。聞けば貸家になっている家は、この婆あさんの亭主で、植木屋をしていた爺いさんが、倅に娵を取って家を譲るとき、新しく立てて這入った隠居所なのである。爺いさんは四年前に、倅が戦争に行っている留守に、七十幾つとかで亡くなった。それから貸家にして、油画をかく人に借していたが、先月その人が京都へ越して行って、明家になったというのである。画家は一人ものであった。食事は植木屋から運んだ。総てこの家から上がる銭は婆あさんのものになるので、若し一人もののお客が附いたら、やはり前通りに食事の世話をしても好いと云っている。
婆あさんの質樸で、身綺麗にしているのが、純一にはひどく気に入った。