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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

婆あさんの方でも、純一の大人しそうな、品の好いのが、一目見て気に入ったので、「お友達があって、御一しょにお住まいになるなら、それでも宜しゅうございますが、出来ることならあなたのようなお方に、お一人で住まって戴きたいのでございます」と云った。

「まあ、とにかく御覧なすって下さい」と云って、婆あさんは柴折戸を開けた。純一は国のお祖母あ様の腰が曲って耳の遠いのを思い出して、こんな巌乗な年寄もあるものかと思いながら、一しょに這入って見た。婆あさんは建ててから十年になると云うが、住み荒したと云うような処は少しもない。この家に手入をして綺麗にするのを、婆あさんは為事にしていると云っているが、いかにもそうらしく思われる。一番好い部屋は四畳半で、飛石の曲り角に蹲いの手水鉢が据えてある。茶道口のような西側の戸の外は、鏡のように拭き入れた廊下で、六畳の間に続けてある。それに勝手が附いている。

純一は、これまで、茶室というと陰気な、厭な感じが伴うように思っていた。国の家には、旧藩時代に殿様がお出になったという茶席がある。寒くなってからも蚊がいて、気の詰まるような処であった。