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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

この辺には木造のけちな家ばかり並んでいる。その一軒の庇に、好く本屋の店先に立ててあるような、木の枠に紙を張り附けた看板が立て掛けてある。上の方へ横に羅馬字で DIDASKALIA と書いて、下には竪に十一月例会と書いてある。

「ここだよ。二階へ上がるのだ」

瀬戸は下駄や半靴の乱雑に脱ぎ散らしてある中へ、薩摩下駄を跳ね飛ばして、正面の梯子を登って行く。純一は附いて上がりながら、店を横目で見ると、帳場の格子の背後には、二十ばかりの色の蒼い五分刈頭の男がすわっていて、勝手に続いているらしい三尺の口に立っている赧顔の大女と話をしている。女は襷がけで、裾をまくって、膝の少し下まである、鼠色になった褌を出している。その女が「いらっしゃい」と大声で云って、一寸こっちを見ただけで、轡虫の鳴くような声で、話をし続けているのである。

二階は広くてきたない。一方の壁の前に、卓と椅子とが置いてあって、卓の上には花瓶に南天が生けてあるが、いつ生けたものか葉がところどころ泣菫の所謂乾反葉になっている。その側に水を入れた瓶とコップとがある。

十四五人ばかりの客が、二つ三つの火鉢を中心にして、よごれた座布団の上にすわっている。