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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
と結んで置いて、別にイブセンには最初から他の一面の自己があるということを言った。「若しこの一面がなかったら、イブセンは放縦を説くに過ぎない。イブセンはそんな人物ではない。イブセンには別に出世間的自己があって、始終向上して行こうとする。それが Brand に於いて発揮せられている。イブセンは何の為めに習慣の朽ちたる索を引きちぎって棄てるか。ここに自由を得て、身を泥土に委ねようとするのではない。強い翼に風を切って、高く遠く飛ぼうとするのである」純一はこれを聞いていて、その語気が少しも荘重に聞かせようとする様子でなく、依然として平坦な会話の調子を維持しているにも拘らず、無理に自分の乗っている船の舳先を旋らして逆に急流を溯らせられるような感じがして、それから暫くの間は、独りで深い思量に耽った。
譬えば長い間集めた物を、一々心覚えをして箱に入れて置いたのを、人に上を下へと掻き交ぜられたような物である。それを元の通りにするのはむずかしい。いや、元の通りにしようなんぞとは思わない。元の通りでなく、どうにか整頓しようと思う。そしてそれが出来ないのである。出来ないのは無理もない。