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くろとかげ

黒蜥蜴

江戸川 乱歩

「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页

青空文庫

名探偵の哄笑

わしらは実に飛んでもないペテンにかかったのです」

明智と緑川夫人とが駈け寄って見ると、なるほど、それは人間ではなかった。早苗さんだとばかり思いこんでいたのは、一個無生の人形の首にすぎなかった。よく洋品店のショウ・ウィンドウなどに見かけるあの首ばかりの人形に目がねをかけ、早苗さんとそっくりの洋髪のカツラをかぶせたものにすぎなかった。胴体のかわりには敷蒲団をそれらしい形に丸めて、毛布がかぶせてあったのだ。

名探偵の哄笑

ああ、人形の首。なんというズバぬけた欺瞞だろう。あまりにも人を喰った子供だましのトリックではないか。だが、子供だましのトリックであったからこそ、おとなたちがまんまと一ぱい喰わされたのだ。さすがの明智小五郎も、犯人にこれほど思い切った稚気があろうとは、想像もできなかったのだ。

それにしても、緑川夫人のいわゆる「暗闇の騎士」とは何者であったか。早苗さんを誘拐して、その身がわりに滑稽な人形の首を残して行った洒落者は、一体だれであったか。読者諸君はよくご存じだ。その「暗闇の騎士」とは、ほかでもない緑川夫人その人であった。前章にしるした通り、彼女は早苗さんに変装して、一応そのベッドにはいり、寝入ったていをよそおって岩瀬氏を安心させておき、さて相手が睡眠剤に熟睡した頃を見はからい、用意の人形の首を身代りに