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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
恐怖美術館
その靴音が止むか止まぬに、懐中電燈の丸い光の中の床板が、方三尺ほど、音もなくスーッと横にひらいて、その下からコンクリートの地面が現われたが、驚いたことには、地面そのものが、蔵の戸前のような厚ぼったいドアになっていて、それが下方に落ちると、ポッカリと、地下道の黒い口がひらいた。
「マダム?」
地の底から誰何の低い声がひびく。
「ああ、きょうは大切なお客をつれてきたのよ」
あとは無言のうちに、早苗さんの背中を抱いた雨宮青年が、地下道の階段を、注意しながら、一段一段と降りて行く。つづいて黒衣婦人の姿も地底に消えると、コンクリートのかくし戸も、床板も、もとどおり閉じられて、あとはまた、何ごともなかったような暗闇の廃工場であった。
恐怖美術館
早苗さんは、本船からボートに乗り移る際に、厳重な眼かくしをされたままであったから、ボートがどこへ着いたのか、上陸してどこをどう歩いたのか、ここは地上なのか地下なのか、全く想像さえつかなかった。
「早苗さん、ずいぶん窮屈な思いをさせたわね。さあもういいのよ。潤ちゃん、すっかり自由にして上げるといいわ」
「黒トカゲ」の親切らしい声がしたかと思うと、猿ぐつわや両手の縄が順次にほどかれていって、眼界がパッと明かるくなった。