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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
恐ろしき謎
そして、もうあばれたり、叫んだりしないから、縛らないでくれっていうんです」
「素直にするっていうの?」
黒衣婦人は意外らしく聞き返す。
「ええ、そういうんです。すっかり考えなおしたからって、とてもほがらかなんです。きのうまでのあの娘さんとは思えないほどの変り方ですぜ」
「おかしいわね。じゃ、あの人を一度ここへ連れてくるように、北村にいってくれない」
コックが旨を領して退出すると、間もなく、縛めを解かれた早苗さんが、北村という船員に手をとられてはいってきた。
恐ろしき謎
早苗さんはひどくやつれていた。誘拐されたままの銘仙の不断着が、クチャクチャにしわになって、髪もみだれるにまかせ、おびただしいおくれ毛が、青白い額をかくし、頬もげっそり落ちて、ひとしお高く見える鼻の上に、つるのゆがんだ目がねが、みすぼらしくかかっている。
「早苗さん、お気分はいかが? そんな所に立っていないで、ここへお掛けなさいな」
黒衣婦人が、自分の長椅子を指さしながら、やさしく言った。
「ええ」
早苗はいわれるままに、素直に二、三歩前に出たが、黒衣婦人の掛けているその長椅子をはっきり意識すると、幽霊でも見たように、ハッと恐怖の表情を浮かべて、あとずさりをはじめた。