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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
うごめく黒トカゲ
うごめく黒トカゲ
黒衣婦人は、地底王国の女王のほこりからも、縄目の恥に堪えかねたのであろう。いずれ逃がれぬ運命とはいえ、せめて最期をいさぎよく、密室にとじこもって、われとわが命を絶とうとしたにちがいない。それと気づいた明智小五郎は、騒がしい捕物の場をあとにして、単身彼女の私室に駈けつけた。
「おい、あけたまえ。僕は明智だ。一こと言いたいことがある。ぜひここをあけてくれたまえ」
急がしく叫ぶと、中から力ない声が答えた。
「明智さん、あなたお一人だけならば……」
「ウン、僕一人だよ。早くあけてくれたまえ」
鍵を廻す音がした。ドアがひらいた。
「アッ、おそかった……君は毒を呑んだのか」
ふみこみざま、明智が叫んだ。黒衣婦人は、やっとドアをあけたまま、その場に打ち倒れていたのである。
明智は床にひざまずいて、その膝の上に女賊の上半身をかかえのせ、せめては断末魔の苦悩をやわらげてやろうと試みた。
「今さら何をいっても仕方がない。安らかに眠りたまえ。君のためには、僕は命がけの目にもあわされた。しかし、僕の職業にとっては、それが貴重な体験にもなったのだよ。もう君を憎んでやしない。