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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
地底の宝庫
地底の宝庫
明智を包んだ長椅子は、一瞬間、船尾に泡立つ燐光の中に、生あるもののごとくグルグルと廻転していたが、たちまちにして、その黒い影は水面下に没してしまった。
「水葬礼ってやつですね。これでわれわれの邪魔者がなくなった。だが、あの元気な明智先生が、もろくも海底のもくずと消えたかと思うと、ねえマダム、ちっとばかり可哀そうでないこともありませんね」
雨宮潤一が「黒トカゲ」の顔をのぞきこむようにして、憎まれ口をきいた。
「いいから、お前たちは早く下へ降りておしまい」
黒衣婦人は、叱りつけるようにいって、男たちを船室へ追いやると、たった一人、艫の欄干にもたれかかって、いま長椅子を呑んだ水面を、じっと見おろしていた。
同じリズムを繰り返すスクリューの音、同じ形に流れ去る波頭、湧き立つ夜光虫の燐光。船が走るのか水が流れるのか。そこには永劫かわることなき律動が、無神経に反覆されているばかりであった。
黒衣婦人は、寒い夜の風の中に、ほとんど三十分ほどのあいだも、身動きさえしないで立ちつくしていた。それから、やっと船室へ降りてきた時、そこの明かるい電燈に照らし出された彼女の顔は、恐ろしく青ざめていた。