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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
奇妙な駈落者
あの男はわしたちを見ているようだね」
「ええ、そうですの。あれはわたくしの部下でございますのよ。ああしてわたくしたちの一挙一動を見張っていて、もしわたくしに危険なことでも起こりました場合には、赤い布を振って、別の場所からあの大屋根を見つめているもう一人の部下に通信します。すると、その部下が、お嬢さんのいらっしゃる遠方の家へ電話で知らせます。その電話と一しょに早苗さんのお命がなくなるという仕かけなのでございます。ホホホホホ、賊などと申すものは、ちょっとした仕事にも、これだけの用意をしてかからなければならないのでございますわ」
なるほど実にうまい思いつきである。女賊が不便な塔の上を、会見の場所に選んだ一つの意味はここにあったのだ。まったく安全な遠方から見張りをさせておくなんて、平地では不可能なことなのだから。
「フン、ご苦労千万なことじゃ」
岩瀬氏はへらず口をたたいたものの、内心では、寸分も抜け目のない女賊の用心を讃嘆しないではいられなかった。
奇妙な駈落者
だが、岩瀬氏がいわれるままに、一と足先に塔を降りて、少しはなれた場所に待たせてあった自動車に乗って立ち去ってしまっても「黒トカゲ」