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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「どうもしないさ」

俺はエンタの「朝日」の口を噛みながら、

「俺はちょっと旅に出る。しばらく会えない」

と言ったが、これで永久に会えないかもしれない。

「旅って、どこへ行くんです」

「遠くへ行くんだ」

思いつめた感じがおのずと顔に出ていたのか、

「遠くって?」

と女は不安そうに言って、

「兄さんに、あたし、相談があるんだけど、あとで……」

アブラゲ(蒲団)が敷いてある横で、女は長じゅばん姿になろうとする。

「まだいいよ。話をしようや、相談ってなんだい」

ここの勤めは相当もうながいはずの女は、着物姿を見ている分にはいかにも吉原のおいらんだが、床の中で抱くと、ついこの間まで田圃で働いていたような固くしまった肉づきをしていて、その野生的な感じが俺の気に入ったのだ。照子とはよほどちがう。似ているところは受け口ぐらいで、

「横になりながら、話しましょう」

字に書けば東京弁だが、どこかの田舎訛りがまだ抜けない。するりとさきに蒲団のなかに入って、

「あたしは年季があけたら、兄さんと世帯を持ちたいと思ってたのよ」

「へっ? もてるねえ」

「ほんとよ。兄さんさえ、その気になってくれたら……でも、兄さんはおいらんを女房にする気なんかないわね」