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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

満州事変勃発を二月後にひかえたときだから、警戒が一層厳重だったのだろう。背嚢を背負って汗びっしょりの兵隊の列が、ほかの埠頭から軍用船に乗り込んでいて、何やら不気味なあわただしさがあった。柳条溝のあの満鉄線路爆破事件は日本側で仕組んだものだけに、すでに物情騒然たるものがそこに感じられたのは当然と言える。

俺から数人ほど前に、ひとりの大学生がいたが、それが、ちょっと来いとやられた。ひと目で朝鮮人と分る大学生だった。朝鮮人はすべてやられるのだ。どんな朝鮮人も一応すべて不逞鮮人と見られたのだ。

朝鮮人の大学生は特に、朝鮮人のくせに大学へなんか行きやがってと、学歴のない刑事の反感を買うのか、大学生はすべて不逞な思想の持ち主と睨まれていたせいか、はじめからもう犯罪者扱いだった。夏休みの帰省と思われるその大学生は、刑事の無礼な尋問に対して、何かいんぎんを欠いた返事でもしたのか、いきなり衆人環視のなかで、ぴしゃりと平手打ちを食わされ、この野郎、生意気なとたちまち、しょっぴかれて行った。無抵抗のまま連行される大学生を、ほかの刑事が横から靴で蹴った。

ひでえことをしやがると俺は憤慨した。