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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

この宿についてから、これで三日間、波子が俺の係りの女中として何くれとなくまめまめしく世話を焼いてくれていたのだが、今までてんでその顔を見ていなかったことに気づいた。気がそぞろだったためか。眼をひくような顔ではなかったせいもあるが、俺はこのとき、初めて波子の顔をまともに見て、

(猫みたいに人なつっこい……そんな感じだな)

その波子が、

「お客さんは猫が好きなんですね」

「そうでもないが」

「いえ、好きなのよ。ほら、あんなに甘えて……」

「え?」

廊下にいつの間にか、ひどく大きな猫が姿を現わしていて、薄気味が悪いくらい大きな図体を、文字通り柄になく、柱にこすりつけて甘えていたが、そうと見たとき、同時に俺は隣りのトタン屋根の強い照りかえしを正面から眼に受けて、くらくらとなった。一瞬、部屋が真暗になって、波子の姿が消えた、波子に化けていた猫が、もとの猫に戻ったかのようだった。

「猫は知ってるんです。猫好きな人を……」

波子の声が眼をつぶった俺の耳に、まるで猫が言っているみたいに聞えた。

「ニャーン」

と猫が(波子が?)鳴いた。

「よし、よし」

眼をつぶったまま俺は言った。