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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

その三 練兵場の犬

血がべっとりと毛をぬらしているのも気持が悪い。たった今、人間に撲殺でもされたのか、なまなましい血の色だが、すでにハエがたかっている。

(いやなもの、見ちゃった)

大きさといい毛の色といい、宿で見た猫とそっくりなのだが、あの猫がこんなところをうろついているはずはない。俺は自分にそう言いながら、そそくさとその場を離れて、

(でも、この俺だって、こんなところをうろついている)

昼間の猫ではないとも言い切れない。こわいもの見たさに似た眼を、ひょいと振りかえらせて、あっと俺は息をのんだ。

猫の死体は消えていた。影も形もない。

誰かが始末したのか。それとも死体と見たあの猫が、実はまだ生きていて、渾身の勇をふるって、みずからそこを立ち去ったのか。

俺は顔一面に汗を(油汗かもしれぬ)ふき出させていた。なんだかもう女なんか買う気がしなくなった。

(出直しだ)

宿に戻ると、東京からの電報が俺を待っていた。慷堂からの電報である。

その三 練兵場の犬

スグカエレ――これが大きく俺の眼に迫った。番頭から渡された電報を、玄関をあがったすぐのところで開いて、ふーんと俺は唸っていた。

その俺を番頭はしげしげと見つめている。