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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

波子は俺に手を貸したまま、

「姉さんに手紙出して、残してきたあたしの荷物のこと頼んだけど、驚いたでしょうね。姉さんはきっと怒ってるわ」

「怒るより、心配してやしないかな」

「そうねえ。だけど、それは、そんなでもないでしょう」

「しっかりしてるから大丈夫、そう思ってるかな」

「姉さんとは血のつながりはないの」

「肉親の姉さんじゃない?」

「あたしはおっかさんの連れ子なの」

そんな会話をしながら――身をいれて波子の話を聞いてなかったわけではなく、その逆だったのだが、このとき俺はこの俺がとうに死んだ人間であるかのような錯覚におそわれた。ようなではない。そう言ってはそのときの俺の実感とはちがってくる。俺はとうに死んだ人間なのだと、それが錯覚という感じでなく、俺の心に来たのだ。死んでるくせに、どうしたんだろう、生きてるような感じだ。おかしいな、そういった感じだった。死んだ俺が、地上で楽しく生きているなんて変だぞ。これが俺の実感だった。つまり、生きているということが錯覚のようだった。

もしも京城であのピストルを使用していたら、おそらく逆にその場で射殺されていて、今ごろの俺は死んだ人間だったろう。