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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
俺はそういうふうに考えようとしていたのだ。
だが、そのヤチは現実的に与えられてはいなかった。ヤチはなくて、あるのは俺の手だけだ。
俺はヨシコを自分の手で可愛がっていた。トロがたちまちふき出しそうになったとき、がらりと唐紙があいて、
「おや、部屋を間違えた」
じょうだんじゃねえやと俺は口の中で叫んだ。驚いて俺はヨシコから手を離していた。
重箱のような四角い顔をした男は、失礼と言って、唐紙をしめかけて、
「あの――矢萩さんをご存知なんでしょう?」
照れかくしのように言った。俺の初めて聞く名だった。知らないと俺は言った。
隠さなくてもいいだろうといった声で、相手は、
「人を殺すときは、どんな気がするもんかなあ」
「殺す前?」
「やっぱり、そうだ」
「なにが、そうなんだ」
「さすがに奥床しい。やっぱり、やってるね」
重箱面をした男はドスで人を刺す手つきをした。
「俺はまだ残念ながら人をばらしたことはない」
正直に俺が言うと、
「だったら、自分たちの仲間に、はいれなかったはずだ」
「みんな、人をばらしたことのある連中ばかりか。それなら、コロシの気持を聞くことはないでしょう」
「一向に自慢しないその精神は見上げたものだ。