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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
このアビルは俺を見ると、これはまたどうしたことか、彼もまた狼狽したように、ローソクの光を急いで吹き消した。俺の狼狽と同じ狼狽に襲われたかのようなあわて方だったが、俺にいささか落胆を感じさせる同じあわて方で俺を藤棚の暗いベンチに導いた。彼の言う「商売」の現場を俺に見られたことが彼に狼狽を与えたのかとも思われたが、そんなことではなさそうだった。
夏ならここはルンペンの巣だが、冬なので人影はなく、そのくせひどく小便臭い。ルンペンのかわりに、ルンペンの犬がうろついて、そこらを嗅ぎ回っている。
「俺もひとつ占って貰いたいんだが」
俺の言葉をアビルは聞き流して、
「こういう犬を見て可哀そうだと思うかね。それとも……ぶっ殺してやりたいと思うか?」
それで占おうというのか。あんたはどっちかねと俺は聞いた。
「殺されるのも運命。飢えながら生きるのも運命……」
アビルは言った。その声にはすでに狼狽のかげはなく、むしろ威厳すら感じられた。
「殺すのも運命……?」
俺がそう言うのを遮るように、
「やったね、あんたは。殺されるよりは、ましだろうが」
運命は俺に、目的を持った殺人を許さず、無意味な殺人を犯させた。