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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「なに、うなされてるのよ」

波子は俺をおこして、

「しっかりしてよ」

「波子か」

「なんの夢見てたの?」

「波子……」

「ここにいますよ。しっかりしてくれなくちゃ、いやだわ」

その波子にと言うより俺自身に、かっと俺は腹が立って、

「しょっぴかれる夢を見た。ええ、いまいましい」

ほんとのことは隠して、

「網走の近くにわざわざ来ることはなかったな」

無期の囚人は根室の北の網走刑務所に送られる。

「いまいましい夢を見た」

「あんたがたとえつかまっても、あたしは子供を生んで、ちゃんと育てるわ」

つわりのひどい波子は工場を休んだが、それはちょうどカニの脱皮期で工場もひと休みというときに当っていた。脱皮したカニは甲羅と身の間に「トウフ」ができて肉もまずく、罐詰にはできないのだ。

たとえ操業をしていなくても、罐詰工場にはカニの臭いがしみついていて、それが鼻につくと波子はすぐ嘔き気を催した。工場に近寄らないで波子は家でぶらぶらしていた。

そうしたある日、百成の細君がひとりでひょっこり見舞いに来た。ひどくめかしこんで――とは波子があとで言ったことだが、札幌あたりで作ったと覚しいよそ行きの洋装は、きたないこのバラックを訪ねるにしてはたしかに大仰で、顔もいやに厚化粧をしていた。