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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

その二 雪中放牧

おてきも、どうだ、出てこねえかよ。出てこいよオ。

「さみしいなあ」

と俺はつぶやいた。さびしいじゃなく、さみしいと言わないと、俺の実感が出ない。汽笛の音はさみしく、濃霧に包まれた街もさみしいが、俺がさみしいと言ったのは俺自身のことだった。

生きたい、生きようとあれほど思った俺だが、生きることが今はさみしい。これが生活に根をおろしたということなのか。それはこんなにもさみしいことなのか。

波子がそばにいなかったら、俺は到底こんなさみしさには堪えられないだろう。と言うことは、俺の巻き添えを食わせて、波子にもさみしいおもいをさせているということだ。俺のこの流刑の(俺としては自分で自分を流刑にしたのだが)――波子はその道連れにさせられ、そうして俺の子供まで宿して……。

「すまねえなあ」

「なーに」

「ごめんよ、波子」

「なに言ってんのよ」

波子は何も俺の思想に共鳴したとかなんとかいうんじゃない。共鳴して俺と一緒になったというんじゃない。そんなようないわば生意気な女じゃない波子だから俺は好きなんだが、しかしそれだけに、そうした波子に苦労をかけるのはふびんだった。

ふと俺はこのとき、どういうわけか、ロシアの女性テロリストのことを思い浮べた。